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素晴らしい景色

判定なんか聞いてもいなかった。

目の前の赤一色で埋め尽くされた相手のコーナーを二人で見渡していた。

「この景色を忘れるなよ」と選手に語り掛けながら自分も一生忘れないと思った。

右手のほうから歓声があがり、相手が勝ったのがわかったが、赤コーナーの面々やその周囲だけは完全に沈黙していた。

花道を引き揚げるとき、わっと四方から観客が集まってきて、称賛と握手を求める手が伸びてきたけど、そんなことに慣れてない俺は戸惑うばかりで、係員に誘導されて先を歩く選手の後を追うので精一杯だった。


 負けたら何の意味もない。
そういう意見の人もいるだろう。
自分もそんな風にいつの間にか考えるようになっていた。

とにかく結果を出さなければならない。
負ければこのジムを手放さなければならないと、勝つことだけを考えてひたすらに突っ走っていた。いったい何が勝利なのかも分からずにね。

次につながるなんて甘っちろいことをいうつもりは毛頭ない。
そんなことはどうだっていいんだ。
ただ、簡単にはやられねえぞバカヤローって意地を見せたこと。
ボクシングは己の勇気の証明なんだ。

それを自分が見てる選手が、あの大群を前にして見事にやってのけた。
それが何よりうれしくてね。

だから、判定なんざ聞いちゃいなかった。
俺たちはリングの上で仁王立ちして、赤コーナーを見渡したんだ。

それは素晴らしい景色だったよ。

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プロフィール

MOK

Author:MOK
元MOKボクシングジム代表。

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